「子供の宇宙(コスモス)」

横浜のライブハウス「ドルフィー」とは、かれこれ10年以上の付き合いになる。
オーナーの恒(ツネ)さんは、シャイな心優しきロマンチストだ。
私が始めてここを訪れた時、あの人懐っこい、笑うと細〜くなっちゃうツネさんの目がとても印象的だったっけ。
木の香りのするアコースティックな小屋。横浜らしい匂いがする。

もう一人共同経営者で、店の料理からブッキングまで担当していたドラマーのエビちゃんという人が居た。
ツネさんの片腕的存在だったエビちゃんの作る「お好み焼き」は絶品だった。
ジャズが大好きで、ライブの時、いつも一番熱心に聴いてくれていたエビちゃん

彼が自動車事故で突然天国に行ってしまったのは、本当に晴天の霹靂だった。ドルフィーは花で一杯になり、みんな泣いた。
皆彼が大好きだったから…。

お葬式は、ミュージシャンである彼に相応しく「音楽葬」で送った。
最後に「聖者が町に」を皆で歌い、演奏しながら泣いた。
一番悲しかったのはツネさんだったかも知れない。

サングラスの奥の優しい目からやっと悲しみの色が薄れ、ツネさんは頑張った。
どんどん自分一人で店の事を切り盛りし、出演者の幅も増え、ミュージシャンから
より愛される店になって行った。

*  *  *  *  *  *  *  *

ドルフィーの棚に、膨大なチラシとともに何冊かの本が置いてある。
北原悠子さん、という詩人の本だ。
私はこの詩を読んで心が揺さぶられた。
ご自分の子供のことを書いている詩なのだが、ああ、こういう見方を人は出来るものなのか、と目が覚める思いだった。
彼女は何と、ツネさんの親戚にあたる人なのだ。
私はいつか、この詩に曲をつけて歌いたい、と密かに切望していた。
今年の4月に「子供の宇宙」という詩集から3篇の詩を選んで作曲した。
そして一昨日ドルフィーで、ついにその組曲をツネさんに聴いてもらえたのだ。

リハーサルをじっと聴いてくれていたツネさんの目には、キラリと光るものがあった。
ライブは温かい雰囲気で行われた。
終わった時、会場はえもいわれぬ優しさで一杯になっていた。

エビちゃんが、喜んでくれている気がした。
よーし、また続きを作ろうっと!!