お母さんのお墓

お母さんのお墓が出来たよ、と義父からの電話。
少し小雨のパラつく中、小高い丘の上にある霊園へと向かう。
もう四月半ばなのに、今日はまるで冬に戻ったみたいに寒い。

随分昔からあるのだろう、古びたお墓が黒々と並ぶなか、母のお墓はちょこんとあった。
遠くから見ても、際立って新しくて綺麗だ。
やはり緊張するなぁ。まだ会った事のない母に会うような、ヘンテコな気分だ。

淡いピンクの墓石は初々しく愛らしく、字も彫りたてで綺麗で、まるで生まれたての赤ちゃんみたいなかんじ。
他のお墓に、始めまして、新米です。宜しくね。って言ってるみたい。

好きだった黄色い花とお線香をお供えすれば、ああ、本当にお墓参り…。

今まで居た人が居なくなり、代わりにピカピカの石で出来たものがちょこんと座り、はい、これがお母さん…、って。
いやだって言ったってしょうがない。これが現実というものなんだものね。
つるつるした石を撫でる。頭を撫でるみたいに。
水をかけて上げる。髪を洗って上げるみたいに。
でも、拝む、なんてしないもん。そんなのいやだもん。
撫でて、いい子いい子、ってして、手で埃払ってあげて、心の中で話し掛ける。それだけ。

それだけなんだ…。居ないんだ…。どこにも、居ないんだ…。
どこに居るの?私にわかるように存在出来ないのかな。

まだ残っていた八重桜に風が吹く。
花びらは舞って、舞って、濡れた地面に還ってゆくんだね。
宇宙に還って行ったの?お母さん。