さようなら、三橋さん…。

まだ私がスタンダードを歌いだして間もない頃、上野に一軒、小さなライブハウスがオープンした。
地下の階段を降りて行くと狭いスペースにアップライトピアノとベース、ドラムがあり、オーナーの笑顔があった。
タバコの煙が充満していて、笑い声とグラスの音をバックにトリオの演奏が流れている。
そこで月一度歌っていた時期があった。
よくミュージシャンが誰かしら遊びに来て一緒に演奏していた。
オーナーは以前テナー吹きだったので、そうなるとヨ−シ、なんて言って楽器を取り出す。アットホームな独特の雰囲気があった。
演奏が始まると、彼は目を細めて、いいなー!うん、いい!と誰より喜んで聴いてくれた。
店主催で、ミュージシャンやお客様交えて大勢で温泉付きコンサートツアーも行った。楽しかった。

そんな雰囲気から遠ざかって、もう随分時が経っている気がする。

先月FAXが届いた。オーナーが亡くなった、と。
驚いた。追悼セッションがあると聞き、早速行く事にした。
店は移転していたし、知らない顔ばかりだったが、懐かしい顔もチラホラあった。
ボーカルの上野尊子さんや広瀬麻美さんの顔もあった。
ママは前にも増して細くなってしまっていたが、明るく振舞っていたのがかえって悲しかった。
17年の歳月が走馬灯のように浮かぶ。店の名は「カスター」。
どうぞ安らかにね…三橋さん。色々本当に有り難う。

今日は私の母の9回目の月命日でもあった。