月の記憶

向こうの丘の上に立っている、一本の大きな木
一番上の枝にかかっている、蒼い三日月
ずっと昔に、どこかで見たような気がする
始めて見たような気もする

手を伸ばして触ると、ひんやり冷たい
記憶の年月の分ひんやりと、冷たい
終わろうとしている春と、始まろうとしている夏が
枝の上で、まだ眠っている
目を覚まさないで
もう少しだけ、そっとこのまま

気付かれないように、月とそっと指きりした
月の雫が、小指からポツンと、伝って、落ちた