さようなら、有吉さん。

遥かなるウガンダの地に夢を描いた友、有吉さん。
会社を定年退職した後、長年の夢だったウガンダに土地を買い、家を建て、農園を作り、
井戸を掘り、牛を飼い、池を作り、アヒルを泳がせ、人々を愛し慕われ、
食べ切れないほどの作物を実らせ、皆で分かち合った。
朝は太陽と共に起き、汗水垂らし体を動かし、夜は満天の星を見ながら眠った。
たった一人で始めた一大事業。気が付くと30余名の現地の人が仲間になっていた。
彼の物凄いエネルギーと穏やかな人柄を、ウガンダの人々は深く愛し敬った。

有吉さんがまさか本当にそこまでやっちゃうなんて、信じられなかった。
ほんの数年で、家族が老後人間らしく暮らせる基盤と、友達という財産を築き、
「さがさんの部屋も用意して置くよ。いつでもこちらに来て下さい。」
なんていう手紙をくれて一年もしないうちに…。
彼は突然…旅立ってしまった。マラリアだったという。
今朝掛かって来た息子さんの電話の声は、何だか遠い所から聞こえてくるようだった。
窓の外の景色が、一瞬、モノトーンに変わった…。

20年来の友、有吉さんとは家族同然の付き合いだった。
多くて一年に数回、ただ歩きながら、ひたすら話した。
お互い身内と思っていた有吉さんとの散歩は、心を開放出来る大切な時間だった。
色んな話をした。今何を考えているかとか、将来の夢とか、文学や哲学や音楽の話をいっぱいした。
散歩の後は気持ちが清々しくなり、まるでいい本を一冊読み終えたような充実感があったっけ。

遠くに居たってずっと見守ってくれている、って思っていたよ。
居なくなっちゃうなんて、考えたことも無かったよ。

今日って立秋だったんだ…。これから散歩にいい季節じゃない、有吉さん。
「散歩しないか?」って…フッとまた電話、掛けて来て欲しいよ。