世界一のトウモロコシ

世界一のトウモロコシを食べた。
生食、というだけでも驚きなのだが、口にしてみると、甘くて、
いい香りがして、歯ごたえがシャキッとしていて…、
え!?これが本当にトウモロコシなの?

この貴重なトウモロコシは、たった5本、北海道のある特別なルートで、冷蔵され、大切に東京に運ばれて来た。
そしてそれを手に入れたある女性が、「どうしてもゆきさんに食べさたい!」と思ってくれた。

仕事が詰まっていて、有り難いけど受け取りにいく時間がない。
その方も年老いたご両親を抱えていて、決まった時間以外なかなか外に出ることは難しい。
私は今日、リハと本番で江古田に4時入り。彼女の家は三鷹
どうにもならない…。

じゃあこうしよう、と彼女。どこか途中の駅で会おう、お互いの中間地点で。
そうすれば渡せる!
緻密に時間を合わせ、トウモロコシを受け取りに行く計画は成り立った。
携帯を持たない彼女に、家を出る時電話して、約束の中野に向かう。
すぐに私は池袋方面に向かわなければならないので、じゃあ新宿に
向かうホームで3時15分にね!

ホームの階段を上がると、ノーメイクで汗を拭き拭き、私を待ってくれている彼女が居た。
手には保冷の銀色のバッグ。
わぁ!と二人は、昼間のホームで涙ながらに抱き合ってしまった。
まるで映画のひとコマみたい。でも、どこか心の隅でちょっぴり照れながら。

彼女と別れて、トウモロコシを大切に抱きながら電車に乗った。
いっぱい人が居るのに、涙が止まらなくて困った。

とうもろこしは、涙が出るほど美味しかった。
彼女の気持ちが、一粒、一粒にぎっしり詰まっている。

彼女はあるジャズバーのオーナー。
店の名前は「あうん」。