ファンタジアの夜…1

10日振りに自分の家に帰って来た。
羽田空港から電車を乗り継ぎ、家に向かう。
見慣れたはずの商店街が、そして久し振りの自分の部屋が、何だかよそよそしく感じる。

送ってあった2つのスーツケースをほどき、グッピーとベランダの花たちの世話をし、洗濯機を回す。
少しづつ、部屋が私を受け入れ始める。私も少しづつ、いつもの自分になって行く。

やまとさんと私たちの夏が終わった。
5000人の聴衆と、約800人の出演者の、熱い熱い夏だった。

前日の夜、ゲネプロ(通しリハ)が始まったと思ったら、いきなり雷を伴う豪雨。
道が雨で川になった。ダンサーや演奏者が孤島のようにテントに取り残された。
リハーサルは中止。何ヶ月もかけて創り上げて来た明日の本番は出来るのだろうか。

いよいよ当日。皆の心はひとつ。願いはひとつ。「晴れて!」
空は泣き飽きた子供のように晴れた。何と、月も星も出て居るではないか!
お客さんもどんどん集まってくる。東京からも何人も来てくれている。
いよいよ始まるのだ!

昼間のフラやアンデス音楽の明るい色調が、日暮れと共に色合いを変えてゆく。
700個の子供たちの手作りキャンドルに灯がともり、川原一面は星空になった。
そして、ドラマが始まる。
高く組まれた照明と、巨大な灯りのオブジェの織り成す世界、音楽と舞とストーリーで、見事に物語りは進んで行く。

指揮者のように全ての成り行きを把握しつつ、時折笑わせて皆の心をオープンにさせる久保・舞台監督。
最初からやまとさんと二人三脚でこの企画をはぐくんで来、ドラマを創り上げた宮本さん。
ただの野外コンサートとは違う広大なステージ、そして幅100メートルの滝の轟音の中という難しい条件の中で、自然に近い音を作ってくれた音響の曽根さん。
皆が、今、ひとつになる。

「ココペリ」を歌う川の向うの山には、巨大なココペリの映像が投影されている。
ゆりかごの夢の後、この常願寺川の凄まじい歴史が映像になってダムとひとつになる。
やまとさんが一番好きだった「埴生の宿」、そして大合唱の「マニフィカート」…その時、ダムに華々しく照明が入り、花火が一本の光となって山頂から駆け下りてくる。光は川辺に届くと、向こう岸いっぱいの光の滝になる。昇り竜のような花火が次々と打ち上げられ、あたり一面を照らす。

         〜〜〜〜〜〜つづく〜〜〜〜〜〜