関西ツアー

もう幾度、関西には演奏旅行で行っただろう…。
数え切れないくらい足を運んでいる。
ゆみちゃん(村上ユミ子さん)に初めて会ったのも、大阪のミノヤホールだった。

始めまして、と挨拶もそこそこに、サウンドチェックのため、彼女はピアノに、私はマイクに向かった。
普通なら何か曲をやってみたりするのだが、打ち合わせも無しに、どちらからともなく、フワッと音が始まった。
まるで長年、コンビを組んで演奏して来たかのように、
それは自然で、美しい即興演奏だった。
その日の演奏はもちろんとても素晴らしく、私達は急接近し、それ以来、関西に行った時は、必ず彼女の家に泊めてもらうようになったのだった…。

ゆみちゃんは料理の腕もプロ並みだった。
よく、音楽と料理は同じだと言うが、まさに彼女の料理は即興音楽だった。
あるものをざっと見渡す。実に手際よく、材料をぱぱぱっと、見たこともない美味しいものに仕立て上げる。そして出来上がった時、台所はキレイに片付いている。

絵も、編物も、ランプ作りも、俳句も、パッチワークも…、彼女の中では音楽と同じ位置をしめ、そのどれもが、人並みはずれて素晴らしい感性だった。
つくづく、惜しい人を亡くしてしまったと思う。

彼女の部屋で、何時間も、何日も、私達は色んな事をおしゃべりしながら、笑いながら、歌いながら、手を動かし続けた。
同じ糸や和紙を使っていても、二人の出来上がったものは、まるで雰囲気の違うのが面白かった。
ストーブを焚いた暖かい部屋で、鉄瓶で沸かしたお湯で、美味しいお茶を入れてくれた…。
手仕事に疲れると、近所を散歩した。
雪がちらついて来て、二人で子供みたいにはしゃいだ事もあった。

ずっとずっと、続くって、信じていた。
私のそばから居なくなっちゃうなんて、考えもしなかった。

来週から一週間、京都、大阪、神戸、和歌山、と回る。
彼女の居ない関西。
居なくなって、初めての関西…。
きっと、なにを見ても彼女につながっちゃうんだろう。

どうしていいのか、わからないけど、
私には、歌う事しか、出来ない。