おばあちゃん

おばあちゃん、という弟子がいる。もちろん(最初は)あだ名だったのである。
華奢で、小柄で、ある種独特な雰囲気を持った、聡明な30歳の彼女。
レッスンに来始めて何回目かに、いつもはパンツ姿の彼女がスカートを履き、のびた髪をクルクルっとお団子にして、ちょっと猫背で「おはようございまーす」と入って来た姿を見て、思わず「おばあちゃん!」と言ってしまったのだが。

その時の彼女も異様で、パッと表情が変わったかと思うと何の不自然さも無く「なんだい、ゆきおちゃん」ときた。
それまでは礼儀正しく、キッチリ敬語で、はいっ!先生!とか言っていたのにだ。

それ以来私は彼女の孫(という設定)になり、おばあちゃんはマジで、家に居ても、自分には孫が居ると思うだけで幸せに満ちてしまう、というふうになり、言葉使いもおばあちゃんぽくなり、私はよく働く不憫な幼稚園児の「ぼく」になってしまったのだ。

何が本当で、何がウソか…。
後天的血縁とでもいうような、そんな関係が、実はあちこちにあるのじゃぁないかと最近思ってしまうのだ。

年齢、男女、立場…、そんなものをヒョイっと超えたところに人生の面白みがあるような気がする。

人はかぶっている皮の下に、自分でも気付かない別の人格(そっちがホンモノかも)が隠れているんじゃないかな。

今日もおばあちゃんは旅先のベルリンから電話をしてくる。
「ゆきおちゃんや、元気かい?風邪は引いてないかい?」