「秘密の花園」

癖のある、たどたどしい日本語。   
見覚えのある懐かしい文字で「ニホンニイキマス。ピットインデ ライブヲシマス。アエルトイイナ」
という内容のファックスが、オランダに住むサックス奏者のアト・パイネンブルグさんから来たのはほんの数日前。
様々な思い出が一瞬で脳裏に蘇る…。

あれはもう4年前の事になるのか…。
今は亡き親友、ピアニストの村上ユミコとのヨーロッパツアー。
アトさんの招聘で、アムステルダムのフェスティバルをはじめ、数個所のコンサートを行った。
その時2週間程アトさんの家で宿泊させて貰った。

アムスとベルギーの間、Windhovenという町の石畳の街路に、彼と愛妻コ―リーの家はある。
中庭はまるで「秘密の花園」。コーリーの丹精して育てた花たちは美しく咲き乱れ、毎朝そこで私たちはコーヒータイムを楽しんだ。
3階建ての3階部分を丸々使わせてくれていたので、我が家のようにゆったりオランダの日々を過ごせた。
コンサートや学生のためのワークショップの合間に、近所の大きな公園を散歩したりピアノを弾いてユミコさんと一緒の時間を満喫出来た事は、今思えば本当に貴重な時間だった。

ちょうどイースターの時期。アトとコーリーは、私達にこっそりチョコレートエッグと手作りケーキを用意してビックリさせてくれたっけ…。

ピットインでの演奏を聴きながら、走馬灯のように記憶は駆け巡る。
2ndセットの何曲目かに彼は「次の曲は、亡き友、ユミコ村上に捧げる」と言ってくれたのが嬉しかった。

4年の月日は流れ、彼女は天国に。私はこの世に。
今でも時々、ふと彼女のケイタイ番号を押しそうにはなるが。