片手のヤモリ

「あのヤモリがいたのよ!」母が弾んだ声で電話してきた。
母の家の屋上のベランダに一匹のヤモリが住み着いていたのだが、
去年の外壁塗装の時、ふと見ると可哀相に片方の手が無くなって、白いペンキが付いていたのだ。
そしてそれきり姿を見せなくなって一年が経っていた。
死んでしまったのだろう、と母も思っていた。
ところが今朝、そのヤモリが姿を現したのだという。
しっぽではないので、失った手は生えてはいなかったが、ペンキは綺麗に取れて、少し大きく成長していたという。

「鰹節の粉を置いてやったら食べた」と、母の声は明るい。
気候も体調も気分も、今ひとつスッキリしなかったこの一週間だったが、
良い事の前兆のような気がして、何だか花の鉢植えを買ってしまった。
名前は鷺草。白サギが飛んでいるような花が咲く。