初めてのお盆

13日の夜、藁のお馬さんを家のドアのほうに向けて置き、迎え火を焚いた。
初めてなので、何をどうしていいのやら…。何となくこんな感じかな、と慣れない手つきでおがらに火を灯す。

何故亡くなった人はお盆に帰ってくるのだろう。何故たった3日間しか居てくれないんだろう。

でも、部屋で母の好きな音楽をかけて、お菓子とコーヒーを入れ、灯りを灯して母を迎える用意をするのはウキウキする。

母が旅立ってもう8ヶ月…。月日ってあっという間に経っちゃうんだなぁ…。
でも時は友達、ってほんと。十二指腸潰瘍もいつの間にか良くなり、今までと同じような日常がある。
仕事をし、ビールも飲み、友達とも遊び、私は生きている。母が居ないのに、普通に息をして、笑ったりもする。
人間ってたくましい。不思議な生き物だな。

でも今日は泣いた。母に会いたくてたまらなくて泣いた。
藁のお馬さんに乗って帰って来てるかもしれないのに、見えないんだもん。話し掛けても、声が聞こえないんだもん。
もし母が居るなら、母の魂の存在を感じる能力が無い自分が悲しい。
張り詰めてた堰が切れたように、悲しさがどっと押し寄せた。

ラジカセから古いスタンダード・ナンバーが流れている。Let me call you sweet heart…、 Kiss me again…。
母がまだ幼かった頃、母の兄達が好きで聞いていたこういう曲は、いつしか母の子守唄になっていたのだ。
こういう曲を聞くと、生まれ育った青山の家が(戦争で燃えたが)、亡くなった兄や姉が、次々浮かんできて泣ける、と言った母。
私が生まれる遥か昔の母の人生のドラマが、ほんの少し、映画のひとコマみたいにまぶたの裏に見えたような気がした。
天国の祖父、祖母、伯父や伯母に、きっとうんと甘えているかしら。

テーブルの上の母のカップ…、コーヒー少し減ってる気がした。(メルマガNO.24より)