「世の中に たえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」
夜中吹く風に、ハッと目を覚ました。桜が散ってしまう…。

東急線沿線、大岡山。以前住んでいた懐かしい場所。
東工大学の構内は最後のお花見の人たちでいっぱい。学生じゃない人のほうが多いかな。
きっと今日が見納め。最後の日曜。最後の桜。
商店街のオヤジさん達も、犬連れの家族も。…って、私も部外者だけど。
ハッとするほど大きく美しい枝垂れ桜。そして通りを埋め尽くす桜並木。
でも私のお気に入りは、不思議な白とピンクが同じ枝から咲いている小さな桜の木。
目立たない裏庭にポツンと咲いているので、余り人も居ないのもまたいい。
今年も咲いたね。青空に映えてひときわ美しい…。

空の色が翳り始めた。少し風も出て来たけど、ちょっと歩いて洗足池へ足を延ばす。
池に映る夜桜は儚くも短い夢…。
金魚すくいお好み焼き屋、ハッカパイプ…等、立ち並ぶ昔ながらの夜店。色んな匂いが郷愁を呼び起こす。
恒例の熱燗とおでんで一杯。

桜よ、桜。妖しくも美しい、現し世の一瞬の宴。
この世に生まれ来て、縁あって出合った人達、離れて行った人達、この世を去っていった人達…。
様々な思い出と共に花びらは散り、そして今年の花の祭りも、幕を閉じてゆく…。