誕生日

何かお祝い事があると、決まって母が作ってくれたのはチラシ寿司。
錦糸卵と絹サヤと紅生姜の彩り美しいお寿司は、特に誕生会には欠かせないご馳走だった。
小学校のクラスメート十数名がプレゼントを持って来て集まってくれる小さな宴会は、自分が主役になれる一年に一度の大イベント。レースのテーブルクロスに銘々のグラスやフォークがセッッテイングされている。大きな硝子の器にいっぱいのフルーツポンチと不二家のケーキも定番だった。
父が張り切って八ミリ(古いね)を披露するのもいかにも誕生日という感じがして嬉しかった。白い布を壁に張り、部屋を暗くしてワクワクしながら皆で見たっけ。

私のうちは今思えば少し変わっていて、かなり大きくなるまで子供にお年玉とかお小遣いとかお金を渡すという事は無く、お正月は何かしらのプレゼントを貰い、必要なものは親に言って買ってもらう、という習慣だった。特に欲しいものは、クリスマスとかお誕生日まで待つ事になる。今の子供から見れば、えらく地味な子供時代である。

一度、誕生日だというのに、母が血相を変えて怒った事があった。
友人が何が欲しい?と事前に聞いたので、着せ替え人形がいいと言った事が母にばれ、何をくれなんて自分から催促するとは何事か、いつからそんな卑しい子になったのかと、こっ酷く叱られた。子供同士で貰うにはそれはきっとかなり高価過ぎたのだ。もう貰ってしまってからでは返す訳にも行かず、その人形を見るたびに叱られた事を思い出して切なかったっけ。

いつしか両親もこの世を去り、そんな想い出も今は甘酸っぱい記憶。
だんだん歳を取ると誕生日なんていやだと思わないこともないけれど、でもやっぱり母が苦労して私をこの世に産んでくれた記念の日。
誕生日は母の写真に花でも飾ろう。