幻風景

目が悪いというのも時には良い事だなと思う。
4階の私の部屋から南側には高い建物が無く、精々二階建ての家が立ち並んでいるのだが、
近眼が進んだ目にはどこか遠い、そうポルトガルの風景のように都合よく写る。
風呂屋さんの煙突はきっとガラス工場。繊細な細工の小さな動物なんかを作っているに違いない。
家々の窓に灯がともる頃、通りにはファドが流れて来るに違いない。
塩っ辛い魚料理を食べさせる店には客が溢れ、ファドを歌う声は益々活気を帯びるのだ。
今日のように灰色の雲が低くたちこめている日は特に。
遠く聴こえて来る環七の車の音はさながら潮騒かな。