過去の音

人も音楽も、常に水のよう。
発したと同時に音楽は過ぎ去って行き、過去のものになる。
演奏し終えた瞬間に、演奏した音楽は過去のもの。
レコーディングを行って記録として残った音も、もちろんすでに過去のもの。

一ヵ月前のことは過去。1日前のことも過去。一秒前のことも過去。
なのになぜひとは、音を形にして残したがるのだろう。

同じひとと、同じ音楽をやる。全く違うものがそこに生まれる。
もう、あの時のあの人もこの人も自分も、どこにも居ない。

それを楽しんで目線を上げれば、進化。
それを懐かしんで留まれば、固執

CDとはそういうものかも知れない。
今はもうどこにも居ない自分が、ある瞬間居たという甘酸っぱい記憶。
一ヶ月もすれば、影も形も無いくらい変貌を遂げてしまうもの。
録音とは冷静に自分の過去を慈しめる者だけの特権なのか、とも思う。

慈しみながら、目線を上げる。
そのさきにあるなにかを、おぼろげに見つけようとしながら。