プレゼント

目黒区に、東山ホームという所がある。
まるでアスレチック・ジムみたいな、運動器具が沢山ある、明るくて広くて清潔なホールには、車椅子の人や、寝たきりの人がベッドのまま来て待っていてくれた。みんなの真剣な眼差しが熱い…。

サックスの井上敬三先生とチェロの翠川敬基さんと共に、慰問の演奏にやってきた私は、普段とちょっと違う緊張感を感じていた。
「あかとんぼ」「浜辺の歌」…。客席から微かに一緒に口ずさむ声が聞こえてくる。フワーっといい感じ。私はこれが好き!
即興で歌った「東山ホームの歌」や「こきりこ節」には、みんな笑顔いっぱいで手拍子で参加してくれる…。

和やかな、あっという間の一時間だった。本当にたまにだけど、こういう、ライブハウスじゃないところで、歌を聞いてもらえるチャンスがある。みんなの心から嬉しそうな笑顔は、私への最高に素敵なプレゼントだ。本当は何処でも一緒なんだけど、誰かに喜んでもらえるほどステキな事はないと、つくづく思う。

いつだったか、ちょっと知人といやな事があって、眠れずに迎えたあるバレンタインデーの日の明け方、辛い気持ちがピークに達した時に、はじけるように、自分という存在が、出会う人へのプレゼントになればいいんだ!と強く思った瞬間があった。
そして、そのイヤーな感情はスーッと浄化されていって、なぜか至福に包まれたのだった。

普段忙しさにかまけてちょっとガサガサした心も、こういう場を与えられる事で、またうるうる、柔らかく弾力を持つ。
その、私に心のやいばを向けた知人には、そんな訳で今は感謝している。彼もまた、ある意味で私にプレゼントをくれたのだから。