音の景色

雨上がりの夕焼けの空を見上げた時、
道に迷った子犬を抱き上げた時、
傷ついた友の涙を知った時、
そんな時、何かを感じる心…。
それはそのまま、その人の音楽になっていくような気がする。

あったかい音。すました音。攻撃的な音。清々しい音…。
音は正直だ。だから怖い。
心がそのまま、出てしまうから。

どんな楽器でも、それは言えると思う。歌ももちろん。
音楽を通して、心が見える。
まるで映画を見ているように。
音の向こうに見える景色を見たくて、お客さんはライブに足を運ぶのかも知れない。

ピアニストの渋谷毅さんは、私が言うのもおこがましいが、天才なのに、子供みたいに心が澄んでいて、可愛い。
彼から溢れ出る音楽は、彼そのもののように、ホコッ、とあったかい。
気負い、というものがなーんにも無くて、自然で、ほっとする。
彼のピアノで歌うと、自分の本当の「良さ」みたいなのが見える。
言葉少ない彼から、無言のうちに多くの事を学ばせてもらっている気がする。

私には、渋谷さんの音楽の向こうにいつも見える、一つの景色がある。
夏休み。小学校3年生位の男の子が、駄菓子屋の前で自転車を止めて、ラムネを飲んでいる。カラカラ、って音をたてて。
あまり人通りがなくて、どっかで蝉の声が聞こえている。
一本道を隔てた向こうの通りに、風鈴屋が通るのが小さく見える。
真っ黒に焼けた、日向の匂いのする男の子は、麦わら帽をかぶって自転車に乗って、また走っていく…。

なぜ、この景色なのかは分からないけど、いつも見える、これが私の「渋谷ワールド」です。