嵐の色

台風が来ている。
嵐の前の不思議な空の色…。
どんよりと暗く、でもどこか黄色味を帯びたような空気。

ぬるい風がボウボウと吹き始める。
きっちり閉めた窓の外は、非日常的な緊張感で一杯だ。

鎌倉で育った私は、嵐の日に海を見に行くのが好きだった。
激しい雨で全身びしょ濡れになりながら、荒れ狂う波を見る。
時には私の背丈の10倍位大きい波が、海辺の道路を隔てた人家までかぶることもある。
ドキドキしながら、ちょっと離れた丘に立って、夏のドラマを見るのだ。

嵐の過ぎ去ったあくる日は、浜辺に流木やら海藻が流れ着いて来る。
湿った風の中で、犬を連れて、いつもと違う砂浜をいつまでも見ていたっけ…。

じっと一人で雨の音を聞いていると、全身が耳になってしまうような気がする。

外は雨足がまた強くなってきている。今晩が峠なのだろう。
まるで、世界がすっかり洗い流されているかのようだ。