「STORK」

むかし横浜に、気風のいい女性オーナーがやっているライブハウスがあった。
彼女は駆け出しだった私に、顔を見ると「おなか空いてないの?」とパンやおやつをくれたり、
誕生日には、ステージで着けなさい、とキラキラのアクセサリーをプレゼントしてくれたりもした。
好きなように好きなものを歌わせてくれ、聞いていないうるさい酔っ払い客は、
「ここはあんたなんかの来るとこじゃないんだよ!帰んな!」と追い返した。
スゴスゴ帰る客はそれでも彼女を恨んだりせず、この前は…、なんて頭を掻きながら後日現われたりした。
愚痴も言わず女手一つで何十年と店をやって来て、ここからプロになった人も数多く居た。
ここでの色んな出会いが、私の演奏スタイルにも大きく影響して行った。
店の名は「STORK」。今日は彼女の12回目の命日。
今も、あの狭くてジャズの匂いがぷんぷんする「ストーク」が、目を閉じるとはっきり浮かぶ。