『巨人にささげた多彩な交歓』

知人から送られて来た朝日新聞の記事。(FM東京ホールでの模様)

'04年11月29日付
朝日新聞夕刊文化芸能欄

黒雨・金大煥記念 日韓文化芸術フェスティバル
『巨人にささげた多彩な交歓』

 今年の3月1日、韓国音楽界の巨人、金大煥が波乱の生涯を閉
じた。70歳だった。2日間にわたるその追悼演奏会(22、23日
FM東京ホール)で、氏と縁の深かった日韓の演奏家が一堂に
会し入魂の演奏を繰り広げた。総勢43名。この数は、氏を慕い
、その生き方に大きな示唆を得ていた演奏家が、いかに多かっ
たかを物語る。

 金大煥は85年の初来日以来、音楽を特定の型や枠でとらえず
、大地を疾走する奔放さと目に見えぬ世界と対話する深遠さで
表現の奥義に肉薄する打楽器演奏家だった。3本のスティック
を指に挟む打楽器奏法や奔放な生き方で支持者も多かった。
 両日とも金大煥の在りし日の演奏映像で幕を開けた。斉藤徹
(ベース)と琴のアンサンブルとの大熱演が生んだ恍惚感にし
ても、おおたか静流梅津和時(サックス)らとの共演で歌っ
たある種の祈りにしても、その敬虔な佇まいは鎮魂の儀式ゆえ
だろう。佐藤允彦(ピアノ)と姜泰煥(サックス)、崔善培(
トランペット)らの演奏も、故人の霊に手向ける祈りと熱い語
らいというべきものだった。

 翌日は姜垠一(へグム)や韓国舞踊団も参加。これら日韓の
さまざまな顔合わせによる共演は、故人も舞台にいることを疑
わせない熱闘だった。43名の中には大倉正之助(大鼓)や一噌
幸弘(能管)ら邦楽演奏家もいれば、セネガル演奏家もいる
。金大煥がいかにジャンルを超えた影響力をもつ巨大な演奏家
であったかを思い知った。

 圧巻は近藤等則(トランペット)と組んだ黒田征太郎が描く
即興のライブ・ペインティングと、さがゆきのヴォーカル。生
と死への祈りをこめたキャンバスを背に山下洋輔や姜泰煥と一
体でスキャット風の呪文を展開した。彼女が故人と交歓しあう
エクスタシー。その反響の中に書家として高名だった故人の模
写する般若心経が聞こえた。

                悠 雅彦・音楽評論家